医学が大好きで、日本のために働きたい

~日本の抱える少子高齢化社会を、医学と介護の両面から支えたい~

きっかけは突然に

 私は鳥取県で平凡なサラリーマンの家庭で育ちました。

中学までは特にやりたいこともなく、田舎でのんびり暮らしていました。

医師を目指したきっかけは、中学3年生のことです。

高校入試が終わった後、1ヶ月くらい暇だったものですから、母親が教諭をしていた幼稚園に遊びに行ってみたんです。

当時、幼稚園で障がい児の方達を預かる取り組みをしてました。ある日、自閉症の患者さんとそのお母さんがおられて、私に「なぜこのような病気になるんだろう」と語りかけてこられました。

障がいを抱えている本人にとっても、ご家族にとっても、病気のメカニズムはよくわからないものです。

もしそのメカニズムが解明できたら、病気が治せるかもしれない。

この方達を助けることができるかもしれない。その時、医学部に行って、医者になろうと決めたのです。

きっかけは突然にやってきました。些細な出会いかもしれませんが、その後の私の人生を決めた大きな出来事でした。

目の前に問題があると心が燃える

 私は「どうしたら問題が解決できるだろう」と考えることが好きなんです。

大学に行くと、全国から多くの優秀な方が集まっていました。また立派な先生方も多く、感銘を受けました。先生が何をやっているかを学ぶのは楽しい経験でした。

卒業後は大学院でしっかり研究を覚えようと考えました。4年間大学院で学び、1年間の助手を経て、米国へ2年間留学しました。

その後、東京女子医大に33年勤めて、遺伝子や創薬などを研究していました。

 主な研究のテーマは、病気のメカニズムを調べることです。

その過程で、老化を含む様々なメカニズムを発見しました。これはより多くの方に役立てると考えたのです。

どうやったら解決できるんだろう?なんとかして助けてあげたい。解決したら恩恵を受ける人がいるんじゃないか?と考えると元気が出るのです。

私は運がいいことに、国内外の優秀な先生とご一緒することができました。

私たちの研究が病気に関する問題を少しでも解決し、医療に役立てられるようにしたいと思っています。

様々な出会いに恵まれて

 医学部の学部学生さんが、医師免許をとるために病院実習があります。

実習中の医師免許がない状態で医療行為をする必要があります。

私は2011年度から、その試験を作成・運営・統括する委員会に所属しています。2009年度からは責任者を担当しました。2021年には医師法改正をしてもらい、制度を整える仕事についていました。

その際に、医学全体を網羅的に知識を学ぶ必要がありました。
透析学会を含め、それぞれの分野の専門家の先生とお話しする機会があり、多くの知識や最新の研究について知ることができました。臨床医学を含めて、広く色々な勉強ができたことが創薬などの着想を得る手助けになりました。

介護の現場から医療を見つめ直す

 井口グループでは介護の現場にも触れています。年配の患者さんを拝見していると、サルコペニアや認知症の方がたくさんおられます。患者さんには個性があります。教科書のように典型的な理屈だけではなく、現場で直接コミュニケーションをとる事で、「どんなことを望んでらっしゃるのか」や「どんな苦労しているのか」を感じ取れます。また、家族の方が話される事を深掘りすることで、毎日新鮮な発見があります。

いつかは老化防止外来を作りたい

 数多くの研究を同時進行していますが、現在日の目を見そうなのが「フェブキソスタットを用いた老化防止」の研究です。フェブキソスタットは元々、痛風の薬です。

人間の細胞はミトコンドリアというエネルギーを産生する仕組みを持っています。
年を取ってくると、そのミトコンドリアが弱ってきます。これが老化の原因の一つと考えられています。

ATPというエネルギーの元となる物質が分解され、最後に尿酸になります。フェブキソスタットは尿酸を作るのを阻害する働きがあります。代わりにエネルギーとして再利用できるヒポキサンチンという化合物を温存する力があります。

そのため細胞の負担を少なくしてエネルギー産生ができるので、ミトコンドリアの負荷が下がって、細胞の中に溜まっていた老廃物を処理する余力ができるのです。この仕組みを使って老化を遅くできることが実験で示されました。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構AMED(エーメド)の協力のもと、薬事承認を取得したいと考えています。

これが実現すれば、歳をとっても筋肉は維持され、体の動きも良くりますし、アルツハイマー病など脳の症状にも効くことが期待されています。お年寄りが元気になることで、本人だけではなく、家族や地域の負担が減ると考えています。

日本を元気するために

 私たちの研究を少しずつ世の中に還元したいと考えています。

先ほどお話ししたフェブキソスタットも、薬事承認が受けられた暁には、最適化した状態で処方することで、お年寄りが元気な状態で長く暮らせると考えています。

フェブキソスタットはすでに痛風の薬として確立していますので、薬価が安いことも大きなメリットです。

高価な薬であれば使える人は限られてしまいます。

安くて効果のある老化防止薬が出てくることで、日本全体の医療費が下がる事も期待できます。

また、多くの薬が外国で開発されたものですが、そればかりを使うということは日本人の給料になっていないということです。日本の企業の薬が活躍することで、それが法人税となり、巡り巡って日本の国民のみなさまへ還元されます。日本の研究に投資して、日本で研究を頑張ることで、日本人に合った医療を実現する。これが国民の為の目標ではないかと私は思っています。

多くのお年寄りが認知症にならずに、足腰も頑丈であれば、本人はもとより家族にとっても負担軽減になります。それは大きく見れば日本のためになるのです。

私が今実現したいのは、そういった社会全体が幸福になる、日本を元気にする研究なのです。

三谷 昌平

専門分野:遺伝子医学

経歴:東京大学理三類入学。東京大学医学部卒業。医学博士。

鳥取県出身、東京女子医大で長く、創薬や病気のメカニズムについて研究(33年間)。

医師の国家試験に関する問題の作成、監修、また法改正など医学界全般に貢献。

現在、自靖会にて老化の研究と実践を通じて患者さんのQOL向上のために尽力。

所属学会等:日本生理学会等

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