慢性腎臓病を知る、そして食い止める

実は慢性腎臓病は、生活習慣病の中でも最も多く患者さんがいる病気です。

患者数は2000万人 (成人の5人に一人)と推計されています。

腎臓内科専門医としてどのように向き合っているかを伺います。

様々な縁があって、今の自分があります

 私は、神奈川県の茅ヶ崎に生まれ育ちました。 海があって砂浜がある、美しい街です。

中学卒業まで、将来のことは特に何も考えていなかった ように思います。明確に”何になりたい”という夢もありませんでした。 私には4つ上に兄がいまして、高校生になる頃、兄が医学部に進みました。

小さな頃から兄の影響を強く受けて育ったので、私も兄と同じく医学部を受験した のが医師になったきっかけです。

腎臓内科になったのも、特別な理由があったわけではなりませんでした。

国家試験後に研修する病院を決めなければいけないギリギリの時期に、都内の色々な病院の医局に電話をかけました。

その時、受け入れてくれたのが東京女子医大の腎臓病総合医療センターに属する腎臓内科でした。(井口理事長は同じセンターの泌尿器の所属です)

卒業する前の年の大晦日に入局試験を受けさせてくれました。

自分は関西にいましたので、年末など帰省の時期にしか上京できないだろうと配慮 してくれたのかもしれません。

たどり着いた場所に自分の居場所があった

 入局してからは、腎臓内科の世界に魅了されていきました。 腎臓内科では蛋白尿がたくさん出る腎炎の患者さんや、高血圧関係、腎不全の患者さんを専門的に診ることになります。

腎臓内科で最も重要な検査は、腎臓組織検査です。

これは入院のできる、腎臓内科医が複数いるような大きな病院でないとできません。

腎機能が悪くなってから検査しても遅いので、比較的腎機能が保たれているけれ ど、尿蛋白がたくさん出る患者さんに行います。 ネフレーゼ症候群と呼びますが、この検査で腎炎のタイプを調べます。 タイプによって使う薬の種類や量が異なりますので、この検査の結果によって治療方針を決める必要があります。

患者さんや先生方との交流を通じて、偶然たどり着いた分野ですが、結果的には良い方向に辿り着いたな、自分としては良かったなと思っています。

生活習慣病で最も多い「慢性腎不全」

 最近「慢性腎臓病」という概念がしきりに叫ばれています。 意外に思われるかもしれませんが、実はこ の慢性腎臓病は、高血圧や糖尿病などの成 人の生活習慣病の中で、”最も患者さんが 多い病気”と言われています。

慢性腎臓病の方は、高血圧・高コレステ ロール・糖尿病など含め、色々な原因で腎臓の機能が落ちてきます。

何も手を打たなければ静かに進行し、腎臓の機能を悪くされる方が本当に多い現状です。

放っておけば最終的に、週に3回、1日4時間の透析治療が必要となってしまいます。

更に、腎臓が悪くなった方を診る腎臓専門の医師が、患者さんの数に比べて非常に 少ないという状況にあります。

健康診断で発覚する慢性腎臓病

 発見されるきっかけで最も多いのが、健康診断です。

見た目にも普通で元気な若い方も、健康診断で” 腎臓の機能が悪い”と指摘されて慌て来院される 方もいらっしゃいます。

診断基準としては”腎臓の機能が悪い”か”尿蛋白が出ている”かになります。これは尿検査と血液検査でわかるもので、全国どこのクリニックや病院でもおこなえる検査です。

腎臓治療の難しいところは、「検査はどこでもできるけど、治療はどこでもできるわけではない」ことにあると思います。

残念ながら、腎臓自体を積極的に治す薬や治療法はありません。

生活習慣を直したり、血圧が高い方はそれを抑えたり、腎臓に影響がある疾患があればそれを治療したりします。

特効薬がないからこそ粘り強い治療を

 健康診断の結果を持って行けば、どこの内科でも診てはくれると思います。
しかし定期的な血液検査などで終わってしまい、生活習慣や食事の改善、薬の内服などが無いままに、いずれ腎不全になっていくという事態になりかねません。

蛋白尿のあまり出ていない慢性腎臓病の方では特に症状が出ないまま進行します。 これは本当に怖いことです。

腎臓の専門医でないと、腎臓の機能を長持ちさせるような治療はできないと言っていいと思います。
それを少しでも食い止めるのが腎臓内科医の仕事です。

派手なことは何もない、しかし患者さんの人生に貢献できる

 日々の仕事は内科外来と透析です。

腎臓専門医でも、特別な治療があるわけではありません。

生活習慣を正すというような、指導が中心となります。

外科の先生のように「癌の手術を何件執刀した」ですとか「何人助けた」とそういう実績があれば分かりやすいのですが、腎臓治療においては、そういう実感のようなものはあまり得られません。

それは派手なことは無い世界です。

地道な生活習慣の改善。腎臓の機能を保つためにはそれが最も有効なのです。

一所懸命外来に通ってもらって「食事をもっと気をつけなきゃダメじゃないか」なんて叱られながらも、血圧を抑え、体重をコントロールしつつ通ってくれる患者さんは、結構いらっしゃいます。

私はそんな患者さんの為にも、

「5年後、10年後に透析にならないように助けられた。」

「透析にならなくて良かった」と言えるような、長い付き合いをしたいと思っています。

腎臓を長持ちできる治療ができることで、患者さんの人生の質を向上させることに 貢献できていると思っています。

窪田 研二

役職:井口腎泌尿器科・内科 北綾瀬 院長

専門分野:腎臓内科・一般内科

専門医資格・指定医資格等:

日本内科学会認定内科医・総合内科専門医

日本腎臓学会認定 腎臓専門医・指導医

日本透析医学会認定 透析専門医・指導医

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